「そんな。橋にじゃなくて急に転勤だなんて。」
狭山田京子(38)は夫の和幸(40)にたずねた。和幸は、
「仕方ないだろう。」
「ま、パパのことだから、そうじゃないかと思ってたけどね。」
息子の卓也(16)は言った。
「ジャーパパ絶対単身赴任で行ってよー。引越しなんて絶対やだからねー。」
娘の裕香(18)は不満そうに言った。京子は、
「いったい何が……。」
「知ってるわよ。パパの所属する社会人ラグビーのチームが廃部になるのが決まってるのに、
自分が監督してるからって出来もしない存続運動なんかするから左遷されるのよ。
とっととあきらめればそんなことにはならなかったのに。」
「そのことだが……。」
和幸が話そうとすると、
「すみませーん、そのことでしたら、私がお話しますー。」
家族四人の前に突然長身というか2メートルを超える大女が現れた。さらに、
「あ、それから私はだんなさん脳ワイ相手とかではなくもちろん浮気相手ではありませーん。」
「え、は派じゃなくてパパ、そうなの?」
裕香は言った。
「ふーん、そうなんだ。」
卓也は、大女の顔を見上げながら言った。
「そうだったの?」
京子は和幸の顔をにらみつけた。大女は、
「ちょっと待ってくダサーい。なにかあったんですかぁー?
誰かが旦那さんの浮気相手だと言ったとかって……ってすみませーん、私でしたぁー。」
「じゃ、いったい何なんだ。君は。」
和幸は大女に尋ねた。
「はじめ増し、ではなくはじめまして。私の名前は凡風(ぼんぶ)
とる代でーす。実はあなたをスカウトするためにきましたぉぁー。
ご主人様はもちろん、ご家族の皆様にも最高の条件をおだししますぅー。」
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