「なーんにも、ない島だなー。」
「ほんとだ。」
「そうねえ。」
島を訪れた若者たちは、口々にそういった。
「そうでもないぞ。」
みんなが声のしたほうを向くと、一人の老人が立っていた。
「爺さん、誰だよ。」
「若い方から名を名乗るのが、この島の昔からのおきてじゃ。」
「かったるいなー。」
「私は相原はるか。」
「松沢直樹。」
「小暮誠一。」
「わしは、チャットのハンドルネームが、『MUGENGUY』というものじゃ。』
「ジーさんか!!チャットでこの島が穴場だって言うからみんなで来たのに。」
直樹が老人に言った。
「確かにこの島は何にもない。」
「こらーっ。」
「……ところだったが、先月から大規模なリゾート開発が始まっての。」
「へぇー、そおなんだ。」
はるかが言うと誠一が、
「でも先月始まったばかりなら、まだ何も出来てないんじゃ……。」
「心配するな、泊まるところぐらいあるから、ついて来い。」
MUGENGUYと名乗った老人は、歩き出した。直樹は、
「なんか態度でかいな。このジーさん。」
とか何とか言いつつ、老人を先頭とする一行は、ある建物の前で止まった。また直樹は、
「どうしたんだよ。」
老人は、
「泊まる前に、ここへ寄っていかんか。」
「秘宝館?」
はるかが、看板の手書きの文字を読んだ。その看板は明らかに素人が日曜大工で作ったであるものだと思われた。
「あ、温泉地によくあるやつだな。」
直樹が言うと老人が、
「ここのは一味違うぞ。これをみてみろ。乙女の心をわしづかみじゃ。」
看板にはなぜか女性をつかむ巨大な手のイラストが描かれていた。
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